春の訪れとともに、東京はピンク色の景色に包まれます。数ある花見スポットの中でも、私が毎年足を運びたくなるのが「ホテルニューオータニ」の日本庭園です。
400年以上の歴史を誇る名園には、ソメイヨシノや八重桜など、時期をずらして咲く19種類もの桜が点在しています。今回は優雅に桜を愛でる「大人の桜巡り」の様子をレポートします。
オー バカナル 紀尾井町 (AUX BACCHANALES)
休日の朝、少しのんびりと過ごして家を出たのは午前11時を回った頃。永田町・紀尾井町エリアへ向かい、ホテルニューオータニの近辺に到着したのは、ちょうどお昼どきの12時前でした。
桜巡りの前に、まずは腹ごしらえ。向かったのは、ニューオータニの敷地内に位置する「オー バカナル 紀尾井町 (AUX BACCHANALES)」です。
ここは「フランスの日常を切り取った」ようなコンセプトが魅力の名店。まるでパリの街角に迷い込んだかのようなテラス席や、賑やかで活気のあるブラスリーの雰囲気は、これから始まる優雅な庭園散策のプロローグにぴったりです。春の柔らかな日差しを感じながら、まずは本格的なフレンチスタイルのランチを堪能することにしました。

こちらの店舗は事前予約も可能なようですが、この日は特段の計画を立てていなかったため、そのまま店頭の列に並ぶことにしました。
お昼どきということもあり、私たちの前にはざっと数えて15名ほどの先客が。一見すると「これは時間がかかるかな?」と怯んでしまう人数でしたが、結果的には30分ほどでスムーズに入店することができました。


「オー バカナル」を訪れたなら、やはり外せないのが名物のオムレツ料理です。数あるメニューの中から、今回私が迷わずチョイスしたのは「チーズオムレツ」。
運ばれてきた一皿は、熟練のシェフの手によって完璧なラグビーボール状に整えられ、表面は一切のムラがない美しい黄金色に輝いています。ナイフをそっと入れると、中からは半熟の卵と、熱で絶妙に溶け出した濃厚なチーズがあふれ出してきました。
一口運べば、バターの芳醇な香りと卵の優しい甘み、そしてチーズの塩気が口の中で三位一体となって広がります。シンプルだからこそ、素材の良さと技術の高さがダイレクトに伝わってくる、まさに「正解」の一皿。添えられたバゲットにこのとろとろの卵を絡めていただけば、そこには至福のひとときが待っていました。
ホテルニューオータニの庭園美
本格的なランチでお腹も心も満たされたところで、いよいよ本日のメインイベントであるホテルニューオータニの日本庭園へと向かいます。
今回は、東京メトロの永田町駅を利用しました。駅の出口(7番出口)から地上に出れば、ホテルまでは徒歩でわずか2分ほどというアクセスの良さ。この、都心の中心地にありながら「駅から降りてすぐ別世界に飛び込める」というスマートな距離感も、ニューオータニ散策が人気な理由の一つでしょう。


いよいよ庭園への入り口に到着です。ここで一つ、初めて訪れる方へのアドバイスを。ホテルニューオータニはその広大な敷地ゆえに、館内が非常に複雑な構造になっています。「ザ・メイン」や「ガーデンタワー」といった建物が連なっているため、慣れないうちはどこに庭園へのアクセス口があるのか、迷ってしまうこともあるかもしれません。
実際、私も初めて訪れた際は、そのホテルのスケール感に圧倒され、入り口を探して少し歩き回ってしまった記憶があります。館内の案内表示を頼りに進むのも一つの手ですが、もし迷いそうになったら遠慮なくスタッフの方に尋ねてみるのが、スムーズに目的地へ辿り着くための「最短ルート」であり最適解です。迷宮のような館内を抜けた先に、突如として広がる緑豊かな別世界を目にした時の感動は、アクセスの苦労を忘れさせてくれるほど格別なものがあります。
宿泊者でなくても庭園は誰でも入ることが可能となっております。



庭園の散策路を進んでいくと、静寂の中にひっそりと佇む鉄板焼きレストランが現れました。ここは「石心亭」をはじめとする、庭園の景観と一体化した贅沢な食空間です。
ふと店内に目を向けると、真っ白で高いコック帽を被ったシェフたちが数名、鮮やかな手つきで鉄板に向き合っている姿が目に飛び込んできました。磨き上げられた鉄板の上で、選び抜かれたお肉がじっくりと焼き上げられていく様子は、まさに職人技の競演。ちょうど見通しの良い位置だったこともあり、そのライブ感あふれる調理風景に思わず足を止めて見入ってしまいました。
さらに、外の空気の中にも、香ばしく食欲をそそるお肉の香りがかすかに漂ってきます。先ほど「オー バカナル」でランチを済ませたばかりだというのに、その五感を刺激する贅沢な匂いに、ついつい「次はここでのディナーを目標に仕事を頑張ろう」というモチベーションが湧いてくるから不思議です。歴史ある庭園の緑と、最高級の鉄板焼きが放つ芳醇な香りのコントラストは、まさに五感で楽しむニューオータニならではの醍醐味と言えるでしょう。


庭園へのアクセスは一箇所だけではありません。館内には他にもいくつかの入り口が設けられており、利用するレストランや宿泊棟に合わせて最適なルートを選べるようになっています。まるで隠れ家を見つけるような感覚で、自分なりのスムーズな動線を探してみるのも、この巨大なホテルを攻略する楽しみの一つと言えるかもしれません。
そして、ニューオータニの館内を歩いていると、嫌でも期待が高まってしまうのが名門レストランの存在です。なかでも、世界的にその名を知られるアイコニックな存在といえば「トレーダーヴィックス 東京(TRADER VIC’S TOKYO)」でしょう。
ポリネシア料理をルーツとした独創的なメニューや、南国の楽園を彷彿とさせるエキゾチックな内装は、都内にいながらにして海外リゾートを訪れたかのような非日常感を味わわせてくれます。特にこちらの伝統的な薪窯(チャイニーズオーブン)で焼き上げられるスペアリブやステーキは、グルメ通の間でも評価が高い逸品。今回はランチ後ということもあり立ち寄ることはできませんでしたが、「いつか特別な日のディナーで訪れてみたい」と心に誓う、憧れの一軒です。
千鳥ヶ淵で桜満喫
この日は日曜日。前日の土曜日は強い風と雨に見舞われたため、移動中も内心では「せっかくの千鳥ヶ淵の桜も、もうすっかり散ってしまっているのではないか……」と一抹の不安を抱えながらの訪問でした。
しかし、いざ千鳥ヶ淵の遊歩道に足を踏み入れてみると、そこには予想を上回る圧倒的な光景が広がっていました。雨風に耐えた力強い桜たちが、お堀に向かって身を乗り出すようにしてまだしっかりと枝に残り、見事なピンク色の回廊を作り上げていたのです。一部ではすでに葉が顔を出し、淡いピンクから鮮やかな新緑へと移り変わりつつある「葉桜」の兆しも見られましたが、水面に浮かぶ花びらと新緑のコントラストもまた、季節の歩みを感じさせる趣深い風景でした。
近年の日本は、春が来たかと思えば瞬く間に気温が上昇し、夏のような暑さに包まれることが珍しくありません。特に千鳥ヶ淵のような人気スポットでは、満開の時期と天候、そして自身のスケジュールを完璧に合わせる「ベストコンディション」での訪問は、年々その難易度が上がっているように感じます。
そんな気まぐれな天候や短い見頃を潜り抜け、このタイミングで千鳥ヶ淵の絶景に出会えたことは、まさに「春の最適解」を引き当てたような、幸運な巡り合わせでした。




お堀の水面に目を向けると、ボートに乗って春のひとときを謳歌する人々の姿が数多く見受けられました。
特に目立っていたのは、桜のトンネルをバックに笑顔で写真を撮り合う外国人観光客の方々や、穏やかな水上デートを楽しむカップルたち。国籍や世代を問わず、誰もがこの日本らしい春の絶景に心を動かされている様子が伝わってきて、見ているこちらまで温かな気持ちになります。
水上から見上げる桜は、陸地からの眺めとはまた一味違った、立体感のある美しさがあるはずです。ひらひらと舞い落ちる花びらが水面に広がる「花筏(はないかだ)」の中を、ゆっくりとボートで進む時間は、まさに至福の体験でしょう。

ニューオータニから千鳥ヶ淵まで、たっぷりと春の景色を堪能しましたが、さすがに足には心地よい疲れが溜まってきました。
最後に向かったのは、九段下駅近くにある「ロイヤルホスト」です。ここでのお目当ては、季節限定のパフェ。歩き疲れた体に、冷たくて甘いスイーツが染み渡ります。落ち着いた店内でパフェを堪能しながら、今日撮った写真を見返す時間は、まさに至福のひとときでした。
ここで、これから千鳥ヶ淵へ行かれる方への重要なアドバイスを。 千鳥ヶ淵周辺は非常に美しいエリアですが、実は休憩できるカフェや飲食店がある場所まで少し距離があります。「疲れたからちょっとお茶を」と思っても、すぐに見つからないことが多いため、事前のルート確認と体力配分には十分注意が必要です。
さらに、桜が満開の混雑期には、遊歩道が「一方通行」の規制対象になることもあります。一度進むと逆戻りができないため、気になる風景は都度しっかりと目に焼き付け、撮影しておくのが「後悔しない桜巡り」の最適解です。これから訪問される方は、ぜひこのあたりのオペレーションを頭の片隅に置いて、快適な散策を楽しんでください。

