出国前の聖地巡礼
成田「とみ田」の濃厚つけ麺を胃袋に叩き込む
海外旅行の直前、成田空港。 ゲートをくぐれば、そこからは未知の景色と刺激的な毎日が待っている。期待に胸を膨らませる一方で、私の心の片隅にはいつも小さな予感がある。
「きっと数日後には、醤油の香りと出汁の味が恋しくてたまらなくなるんだろうな」
だからこそ、私は出国審査を前に、欠かさず行う「儀式」がある。 それは、第1ターミナルの『松戸富田麺旦』で、がっつりと濃いつけ麺を胃袋にぶち込むことだ。

運ばれてきたのは、神々しいほどに極太な麺と、魚介の旨味が凝縮されたドロドロの濃厚スープ。最後の一口まで噛み締めながら、日本の味を細胞の一つひとつに刻み込んでいく。
この重厚な満足感こそが、異国の地で戦う(あるいは楽しむ)ための最高の燃料。 「これでいつ日本食シックになっても大丈夫」 そんな妙な安心感を胸に、私はパスポートを取り出し、保安検査場へと向かうのだ。
成田空港で、あの極太麺と魚介の旨味が凝縮された濃厚なつけ麺を、文字通り「胃袋にぶち込んだ」直後のフライト。 機内に乗り込み、座席に深く腰を下ろしたとき、私のお腹はすでにこの上ない多幸感と、物理的な限界(笑)でパンパンに満たされていました。
「よし、これで思い残すことはない。機内ではぐっすり眠るだけだ」
そう心に決めていたはずでした。しかし、離陸してしばらくすると、キャビンにふわりと漂い始めるあの独特の香ばしい匂い。そうです、機内食の時間です。

正直に白状すれば、その時の私のお腹には、一ミリの隙間も、一欠片の余裕も残っていませんでした。さっきまで堪能していた「とみ田」の余韻が、まだ胃のあたりでどっしりと居座っているのです。
「お食事はいかがなさいますか?」
CAさんの丁寧な問いかけに、理性は「パスして寝るべきだ」と告げています。けれど、旅の始まりを告げるトレイが運ばれてくる様子を見ると、不思議と「一口だけなら……」という誘惑に勝てません。結局、お断りする勇気が出ないまま、目の前に機内食が並びました。
メインディッシュの蓋を開け、湯気とともに立ち上がる香りを楽しみながら、ほんの少しだけ箸をつけます。お腹に余裕がないはずなのに、空の上でいただく一杯の温かい紅茶やデザートは、なぜか別腹のように収まってしまうから不思議なものです。
成田での「がっつり濃厚な儀式」と、空の上での「ささやかな機内食」。 この胃袋の限界に挑むような贅沢な二段構えもまた、私にとっては欠かせない旅のプロローグなのかもしれません。

重慶到着
ぼったくりか、VIP待遇か?暗闇の空港で出会った謎の高級車

約6時間のフライトを経て、ついに重慶江北国際空港へと降り立った。 入国審査を終えてまず目に飛び込んできたのは、見慣れた「LAWSON」の青い看板。成田であれほど日本食を詰め込んできたのに、異国の地で出会う日本のコンビニには、ホッと胸をなでおろすような不思議な安心感がある。
しかし、一歩出口を抜ければそこはもう「戦場」だった。 数歩歩く間もなく、DiDi(配車アプリ)のドライバーたちが鋭い視線で獲物を探すように声をかけてくる。案の定、一人のドライバーに捕まった。「おそらく相場より高い値段を吹っかけられるんだろうな」……そんな予感を抱きつつも、隣で必死に交渉を進める友人の背中を、私はどこか他人事のように、それでいてハラハラしながら見守っていた。
紆余曲折あったものの、なんとか交渉成立。
交渉は成立したものの、ドライバーはなぜかすぐそこにあるタクシー乗り場へは向かわない。「ついてこい」と促されるまま、私たちは空港の出口から歩き始めた。
5分、10分……。 重慶の湿り気を帯びた空気の中、人気(ひとけ)の少ない方へと進んでいく。 「一体、どこまで連れて行かれるんだろう?」 「まさか、変な場所に案内されるんじゃ……」 言葉には出さないものの、友人と顔を見合わせ、じわじわと募る不安を共有する。
ところが、ようやく足を止めた場所に停まっていたのは、私たちが想像していた使い古されたタクシーではなかった。そこにあったのは、重慶の夜の光を反射して艶やかに輝く、一台の高級車。 ぼったくりの恐怖が一転、まるでVIPの送迎のような展開に、私たちはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

車内に一歩足を踏み入れた瞬間、そこには驚きの光景が広がっていた。ダッシュボードには、運転席から助手席の端までを貫くような、文字通り「巨大なモニター」が鎮座している。

助手席に座った私は、その近未来的なインターフェースに思わず身を乗り出した。スマホをそのまま巨大化させたような滑らかな操作感。これなら移動中も退屈することはないだろうと、さっそくエンタメ機能を物色し始める。
配信リストにはドラマやアニメがずらりと並び、適当に一つ再生してみた。スピーカーから響き渡る中国語のセリフ。……しかし、悲しいかな。内容は一文字も理解できない。画面の中で繰り広げられるドラマチックな展開を、私はただ映像美として眺めるしかなかった。日本のアニメが恋しくなり探してみたものの、そこにあるのは未知の作品ばかり。言葉の壁と、中国独自のエンタメ文化の勢いを肌で感じた不思議な時間だった。

空港から都市部へと向かう、約30分のドライブ。高級車の静かな車内から窓の外を眺めていた私は、その光景に言葉を失った。
視界を埋め尽くすのは、天を突くほどに高く、無数に立ち並ぶビル群。しかし、夜だというのに、それらの建物に灯る明かりは驚くほどまばらだ。巨大なコンクリートの塊が、闇の中にポツポツと小さな光を点在させて沈黙している。
その数は、私の想像を遥かに超えていた。これほどまでに巨大な建物が、これほどまでに密集している必要があるのだろうか。果たして、この暗闇に包まれた部屋のすべてに、人々の営みがあるのだろうか。開発の熱狂の跡なのか、それともこれから始まる物語の序章なのか。灯りの少ない高層ビル群を見上げながら、私は重慶という街の底知れない深淵に触れた気がした。

深夜1時。ようやく今夜の拠点となる「ヒルトン重慶」に辿り着きました。 到着早々、タクシーの料金支払いで小さなドラマが。案の定、乗車前に提示された金額よりも高い額を請求されたのです。「あぁ、やっぱりこうなるか」と苦笑いしてしまいましたが、一人頭の差額で考えれば、そこまで大きな痛手ではありません。あのハイテクな高級車で異国の夜を駆け抜けるという「楽しい体験」へのチップだと思えば、安いもの。笑顔で支払いを済ませました。
時計の針はすでに深夜を回っています。実は今回の計画時、「夜中に着くならホテルを取らずに朝まで粘る?」という案も出ていました。しかし、私の苦い経験がそれを全力で止めました。過去、深夜に到着して宿を取らず、朝まで彷徨って翌日を台無しにした後悔は、一度で十分。
「絶対にホテルは取っておくべきだ」と仲間を説得したあの時の自分を、今、ふかふかのロビーを目の前にして全力で褒めてあげたい気分です。
ヒルトン重慶へのチェックインを済ませ、少しだけ高ぶった気分を落ち着かせるために、ホテルの周辺を歩いてみることにした。

深夜の重慶は、驚くほど静かだった。
目覚めればそこは摩天楼。窓から見下ろす重慶の圧倒的パワー

翌日の朝です。
部屋のカーテンを開けた瞬間、私はその光景に息を呑んだ。

眼下に広がっていたのは、地平線の彼方まで続くかのような高層ビルの群れだ。一つひとつの建物が、まるで競い合うように天を目指して伸びている。重慶が「山城(山の街)」であることは知っていたが、これほどまでに立派なビルが起伏に富んだ地形に隙間なく、どこまでも建ち並んでいるとは想像もしていなかった。
正直に言って、驚きを通り越して圧倒されてしまった。「日本以上に発展しているのではないか……」そう思わずにはいられないほどの、爆発的な都市のパワー。かつて抱いていた「中国の地方都市」というイメージは、窓の外に広がるこの近未来的な摩天楼によって、一瞬にして上書きされてしまった。

ホテルには自動で荷物を部屋まで運ぶ最新機器もありました。自分でエレベーターに乗り込んで行きました。さすが中国。かなり発展しています。1日目の重慶の探索に繰り出します。

まず私たちが向かったのは、この街を象徴する聖地「洪崖洞(こうがいどう)」だ。
断崖絶壁にせり出すように建てられた、中国の伝統的な「吊脚楼」様式の建築群。幾層にも重なり合う屋根、複雑に入り組んだ通路、そして絶え間なく流れる嘉陵江の景色でした。

洪崖洞の内部へと潜入。そこは、外の静寂(しじま)を忘れるほどのエネルギーに満ちた、まさに「商売の聖地」でした。

一歩通路を進むたびに、あちこちから店主たちの威勢のいい中国語が飛んできます。何を言っているのかは正確には分かりませんが、その熱量は凄まじいの一言!「うちで食べていけ!」「こっちに来い!」と言わんばかりのしつこい(失礼!)までの猛アピールに、思わず笑いが出てしまいました。
この「グイグイ来る感じ」こそが、まさに中国、そして重慶のリアルなパワー。幻想的な映画の世界から、一瞬にして現地のバイタリティ溢れる日常に引き戻されたような、愉快で刺激的な体験でした。
重慶での最初のお昼時。「やはり本場の火鍋に挑戦せずにはいられない」と、意気揚々と店に足を踏み入れました。しかし、運ばれてきた真っ赤なスープを目にした瞬間、その覚悟は早くも揺らぎ始めます。

一口食べての感想は、「旨味」を探す余裕すら与えてくれないほどの圧倒的な、殺人的な「辛さ」でした。 中でも予想外の伏兵だったのが、良かれと思って注文した「白菜」です。瑞々しいはずの野菜たちは、あろうことか真っ赤な激辛スープをスポンジのようにたっぷりと吸い込み、一口噛むごとに熱烈な刺激を口の中で爆発させる「凶器」へと変貌を遂げていました。
「白菜を食べるのが一番やばい」 そんな、日本ではあり得ない絶望感を味わいながら、聖地の洗礼にただただ翻弄される昼食となりました。
激辛火鍋の洗礼を受け、もはや口の中は火事場のような状態。この痺れを鎮め、少し心を落ち着かせるために、私たちは「コーヒーブレイク」という名の救済を求めることにした。

目指したのは、中国を歩けば必ずと言っていいほど見かける青い看板の「luckin coffee(瑞幸咖啡)」。中国で圧倒的な出店数を誇るこのカフェは、今や現地の日常に欠かせない存在だ。
注文を済ませ、手元に届いた冷たい一杯を一口。 あんなに荒ぶっていた舌が、コーヒーの香りと冷たさで少しずつ癒されていくのがわかる。「あぁ、生き返る……」 洗練された店内の雰囲気と、慣れ親しんだコーヒーの味。重慶という巨大都市の「激しさ」と「快適さ」のギャップを、一杯のカップを通して実感したひとときだった。

基本的にはスマホ注文でAlipayのアプリで注文ができます。

期待半分、喉の渇きを潤したい気持ち半分で購入した「luckin coffee(ラッキンコーヒー)」。今回注文したのは定番のカフェオレ。しかし、一口飲んだ瞬間にその認識は大きく覆されました。
「え、これ、めちゃくちゃ美味しい……」
ミルクのコクがしっかりと感じられつつ、コーヒーの香ばしさが絶妙にマッチしている。火鍋の強烈な刺激を優しく包み込んでくれるような、まろやかで洗練された味わいでした。中国でこれだけの店舗数が展開され、多くの人に愛されている理由が、この一杯で完全に理解できました。
正直、このクオリティと手軽さが日本でも楽しめたら最高なのに……。飲み終える頃には「ぜひ日本に上陸してほしい!」と心から願わずにはいられませんでした。

重慶の街を歩き、現地の家電量販店に足を踏み入れると、日本ではお目にかかれない異様な光景が広がっていました。そこには、ドラムが縦に2つ連なった「ダブルドラム洗濯機」が、まるで山のように展示されていたのです。

ニュースで目にした記憶を頼りに調べてみると、これは中国の富裕層や共働き世帯で爆発的なニーズがある製品だそう。その背景にあるのは、「洗うものを完全に分けたい」という徹底したこだわりです。 上段はデリケートな子供服や下着、あるいはシルク専用。下段はシーツや大人の日常着といった大物用。
「効率」と「清潔」を極限まで追求した結果生まれたこの形。日本の住宅事情や家事スタイルを考えると、「果たして日本で流行るだろうか?」という疑問も湧きますが、中国の圧倒的な「生活のエネルギー」と「ニーズへの即応力」を目の当たりにした瞬間でした。

家電量販店近くにあった解放碑です。
重慶朝天門へ。マリーナベイサンズを彷彿とさせる巨大複合施設の正体

次に訪れたのは「重慶朝天門」です。見た瞬間シンガポールのマリナーベイサンズのパクリと思いました。中にはショッピングセンターとホテルなどがありました。

ショッピングセンターには日本の無印良品もありました。

ショッピングセンターの一角に上に登るための入り口があります。

上に登りました。

重慶の旅の締めくくりに、もう一度だけあの「洪崖洞」へ足を運んだ。夜が深まるにつれ、建物はさらに色濃い黄金色の輝きを放ち、まるで闇の中に浮き上がる不夜城のような圧倒的な美しさを見せている。
その絶景をカメラに収めるべく、私たちは嘉陵江に架かる巨大な橋へと向かった。しかし、そこには予想だにしない試練が待っていた。橋の上は、溢れんばかりの観光客で埋め尽くされている。そして何より、足元から水面までが驚くほど高く、一歩踏み出すたびに足がすくむような恐怖を感じるのだ。
吹き抜ける夜風と、眼下に広がる目がくらむような高度。恐怖に耐えながらシャッターを切ったその1枚には、煌びやかな光の迷宮と、重慶という都市が持つ底知れないスケールが凝縮されていた。

高い橋の上。吸い込まれそうな高度感に足をすくませながらも、私たちは対岸を目指して歩き続けた。一歩進むごとに視界がひらけ、建物の全貌が少しずつ姿を現す。
ようやく辿り着いた対岸から振り返ると、そこには息を呑むような光景が広がっていた。闇夜に浮かび上がる「洪崖洞」の全景が、嘉陵江の川面に揺らめきながら反射し、世界を黄金色に染め上げている。
恐怖をこらえてシャッターを切ったその瞬間、ファインダー越しに映ったのは、旅の疲れも不安もすべてを吹き飛ばすほどに、驚くほど美しく、澄み渡った景色だった。苦労してここまで歩いてきたからこそ出会えた、重慶からの最高の贈り物だ。

